前回の記事、「
Lowden の塗装凹み修復 #1 」の続きです。この連載は2回で、今回が最終回です。
塗装修復するギターは Lowden の40周年記念モデル、F-50C/LH です。お客さんがギターを倒してしまい、トップの表面と角に深いキズが付いてしまいました。Lowden Guitars に使用してある塗装はポリウレタン系であるため、シンナーには溶けません。そこでアートナイフを使って凹んだ部分の塗装を丁寧に取り除き、ハンダゴテと湿らせたキッチンタオルを凹んだ部分に当てて凹みを少し持ち上げましたが、それでも凹みはあります。
今回の修復は
Lowden Guitars のオーナー、George Lowden 氏とも連絡を取り合って行いました。Lowden の塗装はポリウレタン系であるため、ニトロセルロース・ラッカーのように古い塗料と新しい塗料が溶け合いません。そこでスーパーグルー(瞬間接着剤)を重ね塗りすることになりました。表面はスムーズに出来ますが、光に当てると違う物質であることは認識出来ます。それと修復部分の色はどうしても濃くなってしまいます。お客さんにはパーフェクトにはならないと伝えてあり、本人もそれを了承しています。
下の写真は重ね塗りして乾燥したスーパーグルーをスクレイプ(削り)しているところです。重ね塗りした時の写真を撮るのを忘れてしまいました。
重ね塗りして盛り上がったスーパーグルーをスクレイプし(削り)、平らになったらウェットサンディングを行います。
サテンフィニッシュ(艶消し)には2種類あり、ウェットサンディングで最終仕上げを終了するか、細かい粒子の塗料をスプレーで吹き付け、それを最終仕上げとして(サンディングなし)終了するかです。Martin や Santa Cruz のネックは後者で行われていますが、Lowden の場合は、ギター全体をウェットサンディンだけで仕上げを終了するサテンフィニッシュです。表面をよく見てみると、サンディングマークが木目と同じ方向に沿って見られます。ある番号のサンディングペーパーから始め、ある番号で終了します。サンディングペーパーの番号は企業秘密です(笑)。
ある番号のサンディングペーパーで最終仕上げをするのですが、これが難しい。新しいものの全体をサンディングするのならもっと簡単かもしれませんが、修復の場合は、周りの塗装と上手くブレンドさせなければならず、艶消しの場合はこれが難しいのです。真新しいサンディングペーパー、少し使ったもの、かなり使ったものでは塗装の表面の艶消しの見え方が違うのです。真新しいサンディングペーパーならば艶消しが強いし、かなり使ったものだと光沢が強くなってしまいます。いろいろと試行錯誤しながら、どうにか周りの古い塗装とブレンドさせることが出来ました。
下の写真をご覧下さい。表面は滑らかになり、艶消しの度合いも周りに溶け込みました。ただどうしても修復部分は色が濃くなってしまいます。これは見る角度によっても変わります。
ピックガード横の縦に凹んだキズですが、下の写真は盛り上がって乾燥したスーパーグルーをスクレイプしているところです。すくレイプ前の盛り上がった状態の写真を撮り忘れました。
下の写真でも分かるように、ピックガード横のキズはあまり目立たなくなりました。
カッタウェイのバインディングの角に入った2つの凹みですが、まずハンダゴテと湿ったキッチンペーパーを使って凹んだ部分を浮き上がらせるようにしましたが、やはりある程度の限界があり、足りない分は新しい木片を埋め込むことにしました。かなり小さな木片になるのでかなり苦労しました。
こんな具合に埋め込みが完了しました。この上にスーパーグルーを重ね塗りします。その写真も撮り忘れました。
下の写真のように仕上がりました。ちょっと色が違いますが、キズがあるよりはマシでしょう。
塗装修復後、ギター全体のセットアップも行いました。高音側の弦高が高かったので、サドルの底を削って調整しました。Lowden のサドルはスプリットサドル(2ピース)になっているので、1ピースに比べると作業が面倒臭いです。線を引くのにも苦労します。
ちょうど良い弦高になりました。
ギターのサイドですが、綺麗な African Blackwood ですね。
修復前は白いキズが目立っていましたが、修復後はご覧のように目立たなくなりました。ニトロセルロース・ラッカー塗装の場合はもっと目立たなくなるのですが、ポリウレタンの場合は難しいですね。
お客さんには、キズは目立たなくなるけど、パーフェクトにはならないと何度も伝えていました。実際に修復後のギターを見てみると、予想していた以上に出来栄えが良かったので、「君は天才だ!」とお褒めの言葉を頂戴しました。嬉しかったです。
お客さんはかなり気に入ってくれたので、私も一安心しました。
サテンフィニッシュの修復は難しいですね。スプレーで吹き付けて仕上げしているサテンフィニッシュはもっと厄介かもしれません。みなさん、ギターにはキズを付けないようにしましょうね。
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2016/04/22(金) 10:36:14 |
塗装
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今回は Lowden の塗装修復です。去年
Lowden Guitars の公認リペアーマンになってから、Lowden の塗装修復はこれが初めてです。Lowden の塗装は他のメーカーに多く見られるニトロセルロース・ラッカーではなく、ポリウレタン系の塗料が使用されています。そして仕上げは光沢のあるグロスフィニッシュではなく、艶消しのサテンフィニッシュです。サテンフィニッシュはグロスフィニッシュに比べると修復が難しいんですよね。
工房に持ち込まれた Lowden のギターは F-50C/LH で、カッタウェイの左利き用です。通常のモデル名は F-50 ですが、Cutaway (カッタウェイ)の C と Left-handed (左利き)の LH は付いています。このギターは2年前の2014年に発表された Lowden の40周年記念モデルで、トップは Redwood、バックとサイドは African Blackwood という高級な木材が使用されています。
下の写真をご覧下さい。トップの左端に白いキズがあるのが分かると思います。1枚目と2枚目の写真でも分かりますよね。これはお客さんがギターを倒して付いたキズです。
凹みは深く、その部分の塗装は割れています。
カッタウェイ部分のバインディングの角にも深いキズが2ヶ所あります。
もう1ヶ所は透明のピックガードのすぐ横にありました。下の写真がそうなのですが、修復前の撮影を忘れてしまいました。写真は修復途中のものです。
ポリウレタン系の塗装はシンナーで溶けないので、塗装の割れた部分をアートナイフを使って丁寧に取り除きます。丁寧にやるのですが、どうしても若干の木片が塗装にくっ付いて剥がれてしまいます。なるべく最小限に留めておくようにしなければなりません。
ハンダゴテと濡れたキッチンタオルを使って潰れて凹んだ部分を浮き上がらせるようにしましたが、これが限界です。
ニトロセルロース・ラッカーならば、古いラッカーと新しいラッカーは溶け合うので、かなり良い感じで修復出来るのですが、ポリウレタン系の塗装はそう簡単にはいきません。おまけにサテンフィニッシュです(グロスフィニッシュより難しい)。お客さんにはパーフェクトな修復は出来ないけど、今よりはマシになるとは伝えてあります。
今回の塗装修復は、Lowden Guitars のオーナー、George Lowden 氏とやり取りをしながら進めました。氏曰く、塗装を剥がして再塗装しない限り、パーフェクトな修復は望めないということです。
今回は2回の連載なので、次回で修復は終了します。次回をお楽しみに。
つづく。
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2016/04/19(火) 12:06:33 |
塗装
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Santa Cruz Guitar Company のイギリスでの専属リペアーマンになったことは、最近の記事、「
Santa Cruz Guitar Company のイギリスでの専属リペアーマン!! 」の中でもお知らせしました。ということで、今日は最近の修理した、Santa Cruz Tony Rice モデルの話です。
このギターにはいくつかの修理を行うのですが、今回はその中の一つを紹介したいと思います。
ギターの持ち主の話によると、自分の息子さんにこのギターを貸したところ、ストリングワインダー(弦巻き機)でヘッドの横に大きな傷を付けられたそうです。それが下の写真です。
かなり酷いですね。おそらくストリング・ワインダーがヘッドの側面に触れていることを気付かずに回したのでしょう。塗装が剥がれ、ヘッドの角の一部分は木が欠損しています。
ヘッドの塗装はニトロセルロースラッカーですが、表は艶あり、側面と裏は艶消しになっています。よって塗料は艶消しのニトロセルロースラッカーを使用します。まず塗装が欠損している箇所にブラシを使って新しい塗料を塗ります。最終的にはスプレーガンでラッカーを吹き付けるのですが、欠損している箇所に、ある程度の厚さのラッカーを塗って他の部分と同じ厚さにしなければなりません。
ギターの持ち主には完璧にはならないと伝えてあります。と言うのは、木自体が欠損している箇所があるからです。特に角の部分です。塗装を厚くして他の部分と同じレベルにすることも可能ですが、それを行うにはかなりの時間が掛かるため、持ち主と話し合いの結果、そこまでは行わないことにしました。
ラッカー塗料をシンナーで薄めずに塗る場合のトラブルは、塗料の中に小さい気泡が出来ることです。塗料が乾燥してサンディングすると、気泡の穴として残ります。それを最小限に抑えるように塗り重ね、新しい塗装箇所が他の部分と同じ厚さになったら、側面全体をスプレーガンを使って塗装します。下の写真はスプレーガンを使って塗装しているところです。ヘッドの表と裏はマスキングしています。
ラッカーを数コート重ね塗りし、表面が全体的に平らになったと思っても、塗装が欠損していた箇所の塗装は、翌日には沈んでしまいます。ラッカーは完璧に乾燥するには時間が掛かるのです。
表面をウェットサンディングして平らにし、再びスプレーガンで塗装を行います。最終のサンディングやバフィングの研磨を行うには、1ヶ月程の乾燥期間が理想ですが、持ち主が早く仕上げて欲しいと言うので、、乾燥期間を3週間にしました。
表面のウェットサンディングと塗装の吹き付けを繰り返し、3週間乾燥させました。その後、最終のサンディング、バフィング等を行い、艶消しの塗装に仕上げました。角は木自体が欠損しているため、ちょっと凹んだ状態になっています。これは持ち主との話し合いの結果、あまり時間を掛けないということになったからです。
かなり満足にいく結果となりました。ギターの持ち主は期待以上の出来栄えだと感動してくれました。ここまで修復出来るとは思っていなかったそうです。嬉しい言葉ですね。正直言って、塗装は大変な仕事ですが、結果が上手くいくとかなり嬉しいですね。ギターの持ち主には、もう息子さんには貸さないようにと伝えておきました(笑)。
このギターの修復はこれだけではないので、もしかしたら別の機会に紹介するかもしれません。
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2015/05/23(土) 22:22:54 |
塗装
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塗装ブースを別の場所で新しく借りることになりました。
私の工房は狭く、窓も換気口も無いので、今まで塗装ブースは自動車専用の塗装ブースを借りていました。しかし、その塗装ブースは北ロンドン、私の工房は南ロンドンにあり、移動やギターの運搬が大変でした。ところが最近、私の工房とある同じ建物の中に、塗装ブースを持っている木工職人の工房があることが分かり、今度から使わせてもらうことになりました。距離は私の工房から僅か25秒!この木工職人の方は、ギター製作にも興味があるということで、いつでも塗装ブースを使っていいと仰って下さいました。まさかこの建物の中に塗装ブースがあるとは思いませんでした。聞いてみると、排気口は最初からあったそうです。ラッキーですよね。私の工房にも排気口があれば塗装ブースを装備したいんですけどね。
下の写真がその工房なのですが、スライドドアーの向こう側に塗装ブースがあります。この工房はかなり広くて羨ましいのですが、もちろん家賃もかなり高くなります。
下の写真が塗装ブースです。もちろん、エアーコンプレッサーなど、全てが揃っているのですが、スプレーガンだけは自分のものを使用します。お気づきだと思いますが、今回一番最初に塗装するギターはアコースティックギターではなく、エレキギターの再塗装です。
このギターは Gibson Les Paul のダブルカッタウェイで、イギリスのバンド、
The Kooks のリードボーカルのものです。彼から直接私に依頼が来たのではなく、間に2人のギター・テクの方々が入っています。おそらく無償で提供されたギターだと思われるのですが、彼はこのダークグリーンの色が気に入っていないそうで、ステージで使う時は、黒いガムテープをトップに貼っていたそうです。そこで私のところに再塗装の依頼が来たというわけです。
希望の色はシルバーで、Les Paul のゴールドトップがシルバーになった感覚だということでした。いろいろと色を探したのですが、最終的に見つかった色が、60年代の Fender Stratocaster に使われていた Inca Silver(インカ・シルバー)です。
まず剥離剤で塗装を剥がします。15分程してからスクレーパーで削ると、下の写真のように簡単に剥がれます。バック材はマホガニーで、トップ材はフレームメイプルです。
塗装を剥がした後はサンディングを行います。
バック材とネック材のマホガニーは木孔が開いているので、塗装の前に目止めを行います。目止め剤には Z-Poxy を使用します。Z-Poxy はエポキシ樹脂系の接着剤で、目止め剤としては、これが一番気に入っています。
ヘッドの表面だけはオリジナルのままにしておき、塗装は行いません。マスキングテープを貼って隠しておきます。
トップ材は綺麗なフレイムの模様が入ってメイプルですが、今回は透けて見えないソリッドな Inca Silver を塗るため、フレイムは完全に隠してしまいます。まず白い下地(プライマー)を塗って木目やフレイムを隠してしまいます。その後に Inca Silver を塗ります。
色を塗らないネックのバインディングはマスキングテープで隠し、色を塗った後に剥がします。そして全体的に透明のラッカーを重ね塗りします。
重ね塗りの途中でウェットサンディングを行い、表面を徐々に平らにしていきます。
最終コートが塗り終わったら、しばらくの期間、乾燥させます。その後、ウェットサンディング、バフィングと行い、最後にポリッシュで磨いて終了です。
私の仕事はこれで終わりです。パーツの取り付けはギター・テクの方が行いました。そして下の写真3枚が完成したギターです。写真をよく見ると分かると思うのですが、トラスロッドカバーが付いていません。うっかり取り付けるのを忘れてしまいました。後日、トラスロッドカバーだけを届けに行くことになってしまいました(笑)。ドジです。
このギターは次の The Kooks の世界ツアーから使用されるらしいので、その内 YouTube に登場するかもしれません。楽しみです。
今回この仕事を持って来て下さったギター・テクの SW 氏には大変感謝しています。ありがとうございました。またこんなコラボが出来ればいいなと思っています。
ということで、今回は新しい塗装ブースの話と、最初に塗装したギターの話でした。
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2015/04/09(木) 00:22:31 |
塗装
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古いスペイン製のガットギターの塗装を剥がすことになりました。剥がした後は新しい塗装を施すのですが、何の塗装にするかは企業秘密です(笑、大げさ)。
ボディーのトップとサイドに大きなクラックがありますが、これらの修復は塗装を剥がしてから行います。
まずバックの塗装を剥がします。
塗装を剥がすには Paint Remover(塗装剥がし液)を使います。大きな DIY ショップに買いに行ったのですが、探しても見当たりません。以前買ったことがあるし、絶対にあると信じて店内を隈無く探し回りました。すると Paint Remover ではありませんが、Furniture Stripper という家具の塗装剥がし液があり、用途やその効果を読むと Paint Remover と全く同じなので、この商品を買うことにしました。
剥がし液を塗ってからしばらくすると、下の写真のように、塗装が浮き始めます。
浮き上がった塗装をスクレーパーで取り除きます。
1回目では全部は剥がれないので、2回以上の塗りが必要ですが、剥がし液を塗らなくても、アートナイフを使って簡単に剥がれることが分かり、サイド、ネック、ヘッドはアートナイフで剥がしました。皮を剥くのが好きな性格というのがその理由です(笑)。塗装は何なのかよく分かりませんが、おそらくポリウレタン系かなと思います。
バック、サイド、ネックなどのマホガニーの場合は、アートナイフで塗装を剥がしても、表面の木が一緒にめくれ上がることはありませんが、トップ材はシーダー(杉)なので、塗装と一緒に木がめくれ上がりやすいので、これは根気良く、剥がし液を使って剥がします。
現在のところ、まだ完全に塗装は剥がれていませんが、全部剥がれたらクラックの修復をし、ギター全体をサンディングし直して再び塗装します。かなり古いギターですが、塗装をし直すのは勿論お客さんからの要望で、かなり思い入れのあるギターらしく、綺麗にお化粧直しをして保存したいそうです。
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2014/09/10(水) 15:51:26 |
塗装
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