毎週木曜日に行っている、
Ivor Mairants Musicentre での話です。
8日前の木曜日、あるお客さんがギターを持ち込まれました。もちろんリペアーの依頼ですが、その内容については後ほどということで、まずそのギターの紹介をしたいと思います。
ギターは1963年製の Gibson J-160E です。J-160E と言えば、ビートルズで有名ですよね。ジョン・レノンとジョージ・ハリスンは、1963年に揃ってこの J-160E を購入したそうです。ビートルズの初期の頃は、このギターが多用されています。製造開始は1954年で、ボディーシェイプは J-45 と同じですが、ピックアップが装着されており、エレクトリックギターとしても使用した時のハウリング防止のため、初期の頃は単板だった表板も、途中から合板に変更されたそうです。これは生鳴りを抑えるためだとも言われています。ブレイシングも、J-45 の X ブレイシングではなく、ラダーブレイシングが採用されています。
今回持ち込まれた J-160E は1963年製で、持ち主のお兄さん(10年前に他界)が、当時新品で購入されたそうです。購入の理由は、もちろんビートルズが当時使用していたからだそうです。持ち主のお兄さんは、1965年のビートルズの映画、「A Hard Day's Night」に出演しているそうです。ほんのちょっとですが、スタジオの場面に映っているそうです。そして弟の本人も、最後の劇場でのライブの観客の一人として出演したそうです。当時15歳だったそうです。そういうこともあって、当時大人気だったビートルズが使っていたこの J-160E を購入することになったそうです。
当時新品でピカピカだったはずのギターが、52年という長い年月を経て、凄い渋いビンテージギターになっています。フラットピックが当たって削れてしまった表板からは、単板ではなく、合板ということが分かります。
ビンテージギターの特徴である、このニトロセルロースラッカーの割れが堪りませんね。
フレットもかなり削れてフラットになっており、なんといっても、このえぐれた指板が凄いです。
裏板のマホガニーも渋くなっています。
ネックの裏も同じく渋いです。
当時はエレクトリック・アコースティックギターは画期的だったんでしょうね。ボリュームとトーンです。
さて、いよいよここからが本題です。
持ち主から依頼されたリペアーはブリッジでした。弦を張っている時、ブリッジの左側が剥がれて浮いてきたというのです。そしてある日、ブリッジから「カキッ」という音が聞こえ、よく見ると割れが入ったというのです。ギターが持ち込まれた時には弦が外されていましたが、弦を張るとかなり浮くそうです。下の画像からも分かるように、簡単にナイフがブリッジの下に入ります。
Gibson のギターには、60年代初期から中期に掛けて、木製ではないプラスチック製のブリッジが使用されたモデルがあります。J-160E もその一つでした。この J-160E のブリッジもプラスチック製で、持ち主もその事については知っていました。私も以前書いた「
プラスチックのブリッジ?!!」の時に初めてプラスチック製のブリッジの事を知ったのですが、ちょっとこの事について調べて修復すると伝えました。
インターネットで調べて判明した事は、プラスチック製のブリッジも裏側は空洞になっており、接着はされておらず、4個のネジで留めてあることでした。そして長年経ったプラスチック製のブリッジは、弦の張力に負けてしまって変形し、多くの場合、木製のブリッジに交換されるということでした。
中は空洞、ネジで留めてある、接着はされていない、となると、プラスチック製のブリッジをそのまま使用することは困難だと思い、新しく木製のブリッジに交換するのがベストだと判断しました。そして一週間経った昨日の木曜日、持ち主から連絡があり、彼もインターネットで調べ、中が空洞だということを知ったそうです。私は木製への交換を提案したのですが、持ち主はオリジナルの状態を保ちたいらしく、しばらくどうするか考えたいということになりました。本当はフレットも交換しなければならないのですが、それもオリジナルのものをキープしたいそうです。
持ち主はギターを一旦引き取ることにしたのですが、かなり昔、ロンドンでリペアーをやっているある人に、この J-160E の修復を依頼した事があるので、その人だったらどうすれば分かるかもしれないから、プラスチック製ブリッジの修復について尋ねてみると言うのです。私は「えっ!」と思いました。実は以前、そのリペアーマンの修復したギターを、私が再修復した事があるのです。つまり尻拭いです(それ以来、そのお客さんはいつも私に修理を頼むようになりました)。かなり雑な仕事で、これでもプロかと思ったほどです。でもその事をギターの持ち主に言うことは出来ません。他のリペアーマンの事を悪く言える立場ではないのです。その代わり、修復する意思があることを強く訴えました。
下の画像で、ブリッジの割れが確認出来ると思います。
J-160E が再び戻って来る可能性もあるので、どうやってオリジナルのプラスチック製ブリッジをキープ出来るか思案中です。正直言って、絶対に修復したいと思っています。
ところで余談ですが、この日(昨日の木曜日)、ショップである事が起こっていました。2年半前に書いた、「
ポール・マッカートニーに遭遇!」の中で、ポール・マッカートニーがショップの前を通り、私が後を追っかけて握手してもらった事を書いたのですが、またポールが現れたのです!残念ながら、私は地下にいるので、今回はポールを見ることは出来ませんでした。ショップのスタッフの話では、電話中に外に目をやると、ポールがショーウインドウのギターを見ているというのです。スタッフがポールに手を振ると、ポールは敬礼のジェスチャーで応えたそうです。ポールは歩き始めたので、ショップの中に入って来るかなと思ったけど、そのまま立ち去ってしまったそうです。ショップに入って来ていたら会えたのに、本当に残念です。ポールのオフィスが近くにあるので、ショップの前は時々通るみたいですね。大物が何気なく歩いている、それがロンドンです。
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- 2015/01/23(金) 14:04:37|
- ギター紹介
-
| トラックバック:0
-
| コメント:4
ポール・マッカートニーとの遭遇のお話・・・凄すぎます!! よく話し掛かけれましたね^^
私はモハメッド・アリに声を掛けてサインを着ていたT-シャツの胸に書いてもらった事があります。
しばし、興奮しすぎて足が地に付かず夢心地でした。その後のリペア仕事、手が震えませんでしたか?
- 2015/01/23(金) 14:41:06 |
- URL |
- アリゾナ #DL0dExLA
- [ 編集 ]
アリゾナさん、自分でもよく話し掛けることが出来たなと思います。その時は無心だったと思います。とにかく、無意識に体がそういう行動をしていました。モハメッド・アリに声を掛けるのも凄いですね。やなり興奮しますよね。その後は仕事に戻りましたが、手は大丈夫でした。ちゃんと動きましが、なぜか握手した手を洗うのに抵抗がありました(笑)。
- 2015/02/02(月) 23:46:43 |
- URL |
- 奥村健治 #-
- [ 編集 ]
travispitzさん、そうなんですよ。またポールが登場しました。
ギターショップの近くにはエンターテインメント関連のオフィスなどがあり、ポールのオフィスも近くにあるため、ポールもよく出向いているみたいですね。ボディーガードも何もなしで普通に歩いているところが凄いですね。こんな時、ロンドンの凄さを再認識させられます。
- 2015/02/02(月) 23:58:41 |
- URL |
- 奥村健治 #-
- [ 編集 ]