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奥村健治アコースティックギター製作 IN ロンドン

ロンドン在住の個人製作家によるギター製作ブログ

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12弦ギターのブリッジの細工

最近リペアーした12弦ギターのお話です。

4月のある木曜日、いつものように Ivor Mairants で週一回のリペアーの仕事をしていると、一人のお客さんが地下にある工房に現れました。白髪のロングヘアーにカウボーイハット、足には長いブーツ履いた、いかにも60年代に青春を過ごしたという出で立ちの初老の男性でした。

誰かはすぐに分かりました。2,3年前に修理をしてあげたお客さんでした。その時の修理の内容は、12弦ギターのブリッジの接着面に隙間が出来たので、ブリッジを剥がして再接着する仕事でした。この12弦ギターの修理はよく覚えていて、一度他のリペアーマンに同じ修理を依頼したのだが、そのリペアーマンはブリッジを剥がさず、隙間に接着剤を注入するだけで修理を終えたのでした。これってかなりの手抜き修理だと思います。たとえ接着面が生の木同士だったとしても、古い接着剤を取り除かないと強力な接着は出来ないと思うし、特にこのお客さんの12弦ギターは低価格なので、ブリッジとの接着面の表板の塗装が完璧に剥がされず、塗装の上に接着されている場合があるのです。案の定、ブリッジは再び剥がれ始め、私がこの修理を引き受けたのでした。ブリッジを剥がしたところ、予想通り接着面には塗装が残っており、その塗装を剥がしてブリッジを接着しました。後日、このお客さんからお礼を言われたので、この修理の事はよく覚えていました。

そしてこのお客さんは久しぶりに来店されたのですが、今回は別の12弦ギターを持って来られました。同じメーカーの12弦ギターで、前回はスモールジャンボでしたが、今回はドレッドノートです。今回も前回と全く同じトラブルです。ブリッジの下に隙間が出来ています。おそらく前回同様、表板の塗装を完全に剥がさずにブリッジが接着されているのでしょう。

3087.jpg

3088.jpg

ご覧のように、ナイフは簡単にブリッジの下に入ります。接着面の塗装が完全に剥がされていてもブリッジが剥がれ始める事はあるのですが、この12弦ギターの場合は、塗装は完全に剥がされていないと思います。低価格のギターって、こういうところで手抜きがされてるんですよね。

3089.jpg

下の写真は、ブリッジを剥がす前の弦の状態ですが、弦高が高いため、サドルがかなり低く削られています。もうこれ以上低くすることは出来ません。一番手前の6弦の細い方の弦を見てもらえれば分かると思いますが、弦がサドルに乗っているというようりも、ただ触れているだけという状態で、ソリッドな音など全く出ず、弦がサドル上で動いてしまい、かなりビビった音になっています。

弦高は高いし、不揃いな高さのフレットのため、指板のあちこちで弦がビビっています。これらの修理は後でやることにし、まず、ブリッジを剥がして再接着します。

3090.jpg

いよいよブリッジ剥がしです。接着面に熱を加え、接着剤を柔軟にさせて剥がすのですが、ナイフが比較的簡単に隙間に入っていきます。簡単に入るということは、ブリッジが塗装の上に接着されている可能性が大ですね。

3091.jpg

ブリッジが剥がれました。やはり思ったとおりです。ブリッジ接着面の塗装が剥がされているのは内側だけで、外側は剥がされていません。木工用ボンドというのは木と木を強力に繋げますが、木と塗装には効きません。弦の張力は大きいため、ブリッジは徐々に剥がれてくるのです。

3092.jpg

3093.jpg

剥がしたブリッジを元の位置に置き、ブリッジの周りをアートナイフでなぞって切り込みを入れます。

3094.jpg

ノミはスクレーパーを使って接着面の塗装を剥がします。

3095.jpg

接着面の塗装をきれいに剥がした後はブリッジの再接着なのですが、その前にある事を行いました。その作業を写真に撮ったはずなのですが、どうしても見つかりません(涙)。だから文章で説明しますね。

ブリッジの再接着の前に考えたことは、弦高やサドルの高さのことです。ネックを取り外してネックとボディーの接合部分の角度を変えるネックリセットという修理方法がありますが、通常低価格のギターには行いません。理由としては、低価格のギターの場合、ネックの取り外し可能なボルトオン式ジョイントやダブテイル式ジョイントになっていないことが多く、取り外しが簡単に出来ないジョイントが多いのです。それにネックリセットのリペアー代は高額で、余程の理由が無い限り、低価格なギターとの釣り合いが取れません。ならばどうやるのかと言えば、もうサドルが低くする余裕が無い場合は、ブリッジの上部を削るという方法があります。個人的にはこの方法は好きではありません(私は高価なギターには絶対に行いません。絶対にネックリセットです)。そこである事を思い付きました。ブリッジを再接着する前に、ブリッジの下部を削る方法です。この方法だと、再接着後でもブリッジが低くなったことは視覚的に分かりません。ブリッジの下部の周囲をノギスを使って傷を付け、その部分をノミを使って削りました。削った厚さは 1/32 インチ(約 0.8 ミリ)です。ブリッジの上部には全く手を加えていないので、見た目は全く変わりません。これだけ削れば、サドルは高く出来るし、サドルに乗る弦にも角度が付きます。もちろん、弦高も理想の高さに出来るのです。

本当に写真が無いのが残念です。

若干薄くなったブリッジを再接着しました。

3096.jpg

ブリッジの再接着後は、ネックやフレットの調整です。

まずトラスロッドを緩めます。弦高を低くするため、トラスロッドがかなり締められていました。かなりの逆反りです。道理で弦のビビりが酷い訳です。必ずしも、弦高を低くするイコールトラスロッドを締めるではないのです。トラスロッドを締めるには、それなりの理由が必要です。

3097.jpg

フレットは全体を擦り合せしました。そしてネックジョイントの14フレットからはフレットの高さを徐々に落としていきます。いわゆる fallaway です。特に12弦ギターの場合は、ネックジョイント部分からのネックの元起きが起こりやすいので、私の考えでは、弦のビビりを防ぐため、この fallaway は必須です。

3098.jpg

ブリッジが低くなったので、サドルを高くしなければなりません。一番良い方法は新しいサドルを作ることですが、このギターの場合はあまりコストが掛からないようにということで、オリジナルのサドルの下に付け足しをして高くしました。

3099.jpg

サドルが高くなったことにより、全弦が角度を付けてサドルに乗るようになったので、しっかりとしたソリッドな音が出るようになりました。弦高も丁度良く、フレットの擦り合せ、及び fallaway を施したことにより、弦のビビりは全くありません。ブリッジが若干薄くなったことは、視覚的には全く分かりません。音も良くなったし、お客さんには絶対に喜んでもらえると思います。

3100.jpg

お客さんは数日後、私が居ない時にギターを取りに来られたそうです。お客さんがどういう反応をされたかは聞いていませんでした。

それからしばらく経った先々週の木曜日、このお客さんが再び来店されました。今回はギターを手に持っておられません。たまたま近くまで来たので、この前のリペアーのお礼を言いたいと言って立ち寄られたのでした。あれから12弦ギターの調子は良く、かなり気に入っているということでした。私はお客さんがギターを取りに来られた時には店に居なかったので、どうやって修理をしたのかは全く話していませんでした。お客さんは、あれだけ低かったたサドルが高くなり、高かった弦高がどうやって低くなったのか不思議に思っていたそうです。私はその修理方法を説明したのですが、お客さんは驚かれ、そして大変感謝されました。やはり、こうやってお客さんに喜ばれるのは嬉しいものです。



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  1. 2015/06/25(木) 07:34:35|
  2. リペアー
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
<<Santa Cruz Guitar Company からトラスロッド用レンチが届く | ホーム | ロンドン在住日本人女性によるウクレレ演奏会>>

コメント

安いギターにはこんな秘密があったんですね~。
最近初めて自分で塗装はがしをやって、難しさを痛感。
安ギターを眺めては「キレイに処理してあるよなぁ」って感心してたのに
処理していなかったとは驚きです。(全部って訳じゃないんでしょうが)

しかしカウボーイハットの白髪の男性と12弦ギターって
なんかシックリ来ますね(笑)
  1. 2015/06/25(木) 12:27:28 |
  2. URL |
  3. travispitz #-
  4. [ 編集 ]

意外な事で感心してます^^

奥村さんはフレット擦り合わせの際にボデイ傷防止の為に弦の紙袋を左右1枚づつ簡単にチョチョイのチョイと
マスキングテープで貼り付けて作業をされてますが・・・よくボデイに傷をつけないものだといつも感心してます!
私は今でもプラ板を加工してがっちりガードして作業をしないと怖くてダメですね(汗!)

もし・・・修理する前のこのギターのサドルがブラスだったら、シタールアコギギター(無いけど!)みたいな音がしたでしょうね^^!)
  1. 2015/06/25(木) 15:10:54 |
  2. URL |
  3. アリゾナ #kpjYxc8I
  4. [ 編集 ]

奥村さん こんにちわはじめまして! いつも興味深く拝見させて頂いております
奥村さんの記事は大変勉強になります ワタシのリペア作業にも「技」を盗ませていただきます(笑) ますますのご活躍を!!!ではまた~!
  1. 2015/06/26(金) 02:49:06 |
  2. URL |
  3. 加藤工夢店 #-
  4. [ 編集 ]

Re: タイトルなし

travispitzさん、安いギターには、それなりに安くて早く作る理由があるんですね。
実は、高級ギターにも時々あるんですよ。本当にビックリしますよね。
  1. 2015/07/16(木) 20:11:00 |
  2. URL |
  3. 奥村健治 #-
  4. [ 編集 ]

Re: 意外な事で感心してます^^

アリゾナさん

このコメントに対しても返信が遅れて申し訳ないです。
そう言えばそうですね。弦の紙袋を左右に貼り付けているだけです(笑)。自分の工房での作業の時はボール紙で作った専用の傷付け防止のガードをしているのですが、ギターショップでは作っていないんです。ボディーに傷を付けることはないのですが、今度は大事をとってもっと頑丈なガードをします。

もしかしたらシタールの音になっていたかもしれませんね(笑)。

  1. 2015/07/24(金) 22:21:07 |
  2. URL |
  3. 奥村健治 #-
  4. [ 編集 ]

Re: タイトルなし

加藤工夢店さん、コメントありがとうございます!そして返信が遅れたことを深くお詫び申し上げます。

いつも私のブログを読んで頂いているということで大変嬉しく思います。自己流のこともよくやっているので、変なこともしているかもしれませんが、その場合はどうかお許しを。何かあったらいつでも連絡して下さい。お互いに頑張りましょう!

  1. 2015/07/24(金) 22:24:34 |
  2. URL |
  3. 奥村健治 #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

奥村健治

Author:奥村健治
アメリカでギター製作を学び、現在イギリス・ロンドンにてアコースティックギター製作に励んでおります。長崎県佐世保市出身

Santa Cruz Guitar Company, Bourgeois Guitars, Lowden Guitars の英国でのリペアーマンもやっています。

www.okumuraguitars.com
www.okumuraguitars.tumblr.com
https://twitter.com/okumuraguitars
https://instagram.com/okumuraguitars/

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